「もう、仕事辞めたい」と不妊治療中は何度も思いました。
当時、自分の住む街では、授かれない原因がつかめず、
高度な治療へステップアップできなかったのと、
本当に信頼できる先生に巡り合えなかったから、ただ何となく気が向いたら通院するという日々が何年も続き、気が付けば結婚して10年が経過しようとしていました。
年齢に危機感を感じ、30キロ以上離れた街に、高度治療ができる病院があると知り、
なんとか1か月先で予約が取れ、1時間以上ハンドルを握って通い始めましたが、
それは想像なんてできなかった日々でした。
ですが、先生と看護師さん、受付の方が、本当に心に寄り添ってくださることが支えでした。
当時は同僚にほとんど秘密にしていて、仕事も忙しい中、あいまいな理由で代休を取らせていただき、知らず知らずのうちに精神的に追い込まれていました。
治療も本格的に進んだ、ある日のこと、
看護師さんとのふとした会話のなかで、仕事を辞めたいニュアンスの弱音を吐いてしまったとき、看護師さんからの一言がありました。
「私たちもこうして今は笑顔でいるけど、その昔、不妊を経験しているの。
あなたが今、大変なのはすごく理解できるよ。
仕事はその気になればいつでも辞められる。
今は辞めるか辞めないかという選択ばかりを考えないで。
今は仕事を辞めないで。
今は一番大切なことだけ考えていて」
正直その瞬間、その言葉はプレッシャーに感じました。
この言葉が「仕事を辞めないほうがいい」とだけに聞こえてしまっていたからです。
当時は、経済的にも、仕事内容的にも辞められない状況でした。
袋小路でした。
でもその言葉が、繰り返し頭と心の中で再生されるたびに、気持ちが少しずつ整いました。
会社にはいくらでも変わりはいる。
でも、今、自分が立ち向かっているものは自分の変わりはいない。
自分は今、自分ではコントロールできないものと立ち向かっている。
そんな気持ちへと、自然とすこしずつ変換されていきました。
結果的には、2人とも顕微授精で授かりました。
費用的にはずいぶん苦労してしまいましたが、仕事を辞めなかったことで、2人の出産まで終えることができました。
看護師さんの言葉は、現実と感情に、素直に向き合うことができるようになった宝物になりました。